Twitterに居座り続けて7年。mixiよりもにゃっぽんよりも長くいる。Twitterの面倒なところは、過去のツイートを遡るのに手間がかかること。そもそも、情報の洪水に押し流され、過去に何を呟いたか忘れがち。
そんなわけで備忘録も兼ね、Twitterでつぶやいてきた伊福部昭ネタをピックアップ。主に日本国外における伊福部作品の演奏について。前のエントリーとも関連あり。
●近衛秀麿指揮ウィーン交響楽団による「日本狂詩曲」の演奏記録
1940年12月14日の近衛秀麿指揮ウィーン交響楽団による松平頼則「パストラル」近衛「越天楽」伊福部「日本狂詩曲」の演奏記録。 https://t.co/wASz8HEptO 自作自演をチェレプニン賞1位2位の作品で挟んだ形。この頃のウィーン響てもうナチスの影響下にあったのかな。
— オリエントP@しょうたいむ (@orientp) March 4, 2016
「Großer Saal」「Ifukube」で検索していて見つけたもの1)なんでそんな突拍子もないキーワードで検索かけていたのかというと、ウィーン楽友協会ホールでタプカーラをやる日本のアマオケがあるとかなんとかTwitterで見かけたような記憶があったから。結局その件については詳細不明のまま。。
大戦下、日独伊三国同盟が結ばれて間もない1940年12月14日、ドイツに併合されていたオーストリアで、日本人指揮者・作曲家である近衛秀麿の指揮のもと、ウィーン交響楽団が日本とドイツの楽曲を組み合わせたプログラムで演奏会を行っていた。その中に伊福部昭の初の管弦楽曲「日本狂詩曲」も含まれていた。この頃のウィーン響はナチスの影響下にあった。おそらくは政治的意図のある演奏会だったのではないか。
曲目はベートーヴェン:レオノーレ序曲第3番、松平頼則:パストラル、近衛秀麿:越天楽、伊福部昭:日本狂詩曲、ブラームス:交響曲第1番。近衛の自作自演をチェレプニン賞の首席・次席作で挟み、さらにそれらをドイツもので挟み込むというかたち。かなりボリュームのあるプログラミングという印象。近衛の越天楽編曲は1931年、パストラルと日本狂詩曲は1935年の作で、どれも1940年にはまだピチピチの新曲・新編曲だった2)ついでに言うと、ブラームスの1番も1940年から遡ること64年前の作になるから、当時としてはまだまだ新しい曲だったと言えるかも。2016年の今日から言えば、64年前というとケージの「4分33秒」とか團伊玖磨のオペラ「夕鶴」とか。そういう時間間隔。時間感覚はまた別かもしれないが。。
日本狂詩曲は第二次大戦前の欧米で繰り返し取り上げられていて、その記録のひとつということになる。しかもウィーン楽友協会の大ホール、あのウィーン・フィルが拠点とするホールでの演奏記録。ドイツによる併合という特殊な状況下の当地で、どんなふうに響き、どんなふうに受け止められたのか。もしかしたら地元紙に記録が残っているかもしれない。政治的意図のある演奏会であればラジオで放送されたかもしれない。
伊福部は大戦前は欧米諸国で評価され繰り返し演奏されたが、第二次大戦を機にそれが止まってしまったとされている。その過程の中でナチの政治利用があったかも?と思うと、複雑な気持ちになるし、知られざる歴史を覗いたようでちょっとワクワクもする。
●「ラウダ・コンチェルタータ」放送向け以外で初となるセッション録音
きちんと調べたわけではないが、日本国外における伊福部純音楽作品の演奏機会は少ない、という印象がある。端的に言うと知名度が低いのではないか。録音も数えるほどしかない。セッション録音は2000年代に入ってようやく1枚出たばかり。それから、外国人指揮者が来日して取り上げる邦人作品といえばやっぱり武満で(最近だと細川俊夫も)、伊福部をというよりも武満以外の作曲家を取り上げようとする向きが少ない3)近年ではアンドレイ・アニハーノフが東京ニューシティ管で「交響譚詩」を演奏した。彼はプレス向けの声明の中で伊福部を重要な作曲家と位置づけていた。。
そんな中で、伊福部の代表作「オーケストラとマリムバのためのラウダ・コンチェルタータ」のセッション録音が海の向こうからやってくる4)どうも「ラウダ」は海外でもちょくちょく演奏されているらしい。ここで取り上げたものの他にアデレード交響楽団の演奏をラジオで聴いたことがある。。
ボグダン・バカヌ(Bogdan Bacanu)というルーマニア出身のマリンバ奏者が、祖国で伊福部の「ラウダ・コンチェルタータ」を何度か演っている。2008年ごろにホリア・アンドレースク(Horia Andreescu)指揮・ルーマニア国立放送交響楽団と共演、このときの5分程の録画がYouTubeにアップされている5)以前はVimeoにもっと長い12分程度の動画が掲載されていた。。2015年にはクリスティアン・マンデアル指揮ルーマニア・ナショナル・ユース・オーケストラと共演。そしてこの度、2015年の演奏会と同じ布陣6)国立青少年芸術センターのFB投稿では「ルーマニア・ナショナル・ユース・オーケストラ」とされていたのだが、CDの表記は「ルーマニア国立交響楽団」となっている。このオーケストラはユース・オケが母体となっているらしい。異国のオーケストラ事情はいまいちよくわからない。仕方ないことだけど。でCDのためのセッション録音と相成ったようだ。ソースはボグダン・バカヌ本人と国立青少年芸術センターのFB投稿、レーベルによるCDの発売情報。
「日曜には伊福部昭のラウダ・コンチェルタータ!」。
「3月5日(土)の演奏会に合わせCD向けの録音も行う。エマニュエル・セジョルネと伊福部昭の作品。」というようなことが書かれている。録音されたのは本年・2016年の3月6日(日)だろう。
Genuinレーベルのカタログ。試聴もできる。iTunesでの予約も始まった模様。こちらはiTunesで開くともっと長い冒頭部の試聴用音声が聴ける。
当CDはドイツGenuinレーベルから2016年11月4日に発売予定。カタログナンバーは「GEN 16441」。フランスの作曲家・打楽器奏者セジョルネの「マリンバと弦楽のための協奏曲」「マリンバ四重奏のための協奏曲」が併せて収録される。セジョルネとのカップリングは、なんとこの10月にオクタヴィア・レコードから発売される塚越慎子のCDと同じだ7)こちらは「ラウダ」が読響とのライヴ録音、セジョルネ作品はマリンバと弦楽のための協奏曲のみ。。偶然なのだろうか8)これで2016年10月下旬から11月初旬にかけて「ラウダ・コンチェルタータ」のCDが一挙に3種もリリースされることになる。残り1つは「協奏四題」ライブレコーディング。。
日本国内では比較的演奏機会の多い「ラウダ・コンチェルタータ」だが、意外にも管弦楽オリジナル版のレコード盤のためのセッション録音はこれが初めてとなる。まさかドイツのレーベルに乗っかって、ルーマニアからそれがやってくるとは! 嬉しさと、なぜ日本国内でそれがなされなかったのか、という不満と、複雑な心境。
しかしやっぱり嬉しい。伊福部は日本国内でも忘れられた作曲家という扱いだったのが、70年代に入ってからの、映画音楽で育った若者から支持を受けたりだとか、伊福部を批判していた勢力の衰退だとか、そういった流れの中で発表した「ラウダ」が高く評価され、日本国内の楽壇での再評価のきっかけとなった。もしかしたら海外でも、この1枚から再評価が始まるかもしれない。作品は解釈が様々に重ねられることで古典となってゆく。広く演奏されたほうが作品の理解もより深まるだろう。期待したい。
●「リトミカ・オスティナータ」を演奏した最初のロシア人?
これは本当に詳細がよくわからない話。上記の「ラウダ・コンチェルタータ」の文章を書くに当たり、海外での演奏記録がないものかと色々漁っていたところ、見つけたもの。
「バレッタ国際ピアノフェスティバル」のサイトに掲載されたアナトリー・カッツ(Anatoly Katz)という作曲家/ピアニストのプロフィールに「バーンスタイン『不安の時代』や伊福部昭『リトミカ・オスティナータ』を演奏した最初のロシア人アーティスト」と書かれている。いつ頃の話なんだろうか。
ロシアと言えば、ソビエト時代には「日本の太鼓」がモスクワで上演されているし、NAXOSから出た伊福部盤はロシアの指揮者・オーケストラ。そもそも、伊福部の師匠は亡命ロシア貴族の作曲家だ。伊福部と何かと縁のある国と言って良い。あちらでも伊福部音楽は受けそうだけど、どうなんだろうね。
●ポーランド国立放送交響楽団による「ゴジラ」の演奏
荘厳なオーケストラの演奏で振り返るヒップホップの歴史的名曲たち より
JIMEK(Radzimir Dębski)指揮ポーランド国立放送交響楽団。ヒップホップの名曲をオーケストラ向けのメドレーにアレンジするという企画で、その24曲目にファロア・モンチ「Simon Says」が組み込まれている。この曲は伊福部の「ゴジラVSモスラ」メインテーマの録音を無断でサンプリングし、東宝と裁判沙汰になったもの。それがオーケストラで再現されたというわけだ。肝心の演奏は、ゴジラの引用という文脈から切り離された解釈なのか結構へろへろ。30秒ほど演奏してすぐ後ろがビヨンセ。オーケストラによる伊福部とビヨンセとをつないだ演奏は後にも先にもこれだけだろう。動画の6分過ぎから。最初から聴いてもなかなか楽しい。
といったところ。
明日(11月3日)は久々にシンフォニア・タプカーラを聴いてきます。山下一史指揮・新交響楽団。ゴジラ誕生祭(オールナイト上映)明けで爆睡しなきゃ良いけど。
注
▲1 | なんでそんな突拍子もないキーワードで検索かけていたのかというと、ウィーン楽友協会ホールでタプカーラをやる日本のアマオケがあるとかなんとかTwitterで見かけたような記憶があったから。結局その件については詳細不明のまま。 |
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▲2 | ついでに言うと、ブラームスの1番も1940年から遡ること64年前の作になるから、当時としてはまだまだ新しい曲だったと言えるかも。2016年の今日から言えば、64年前というとケージの「4分33秒」とか團伊玖磨のオペラ「夕鶴」とか。そういう時間間隔。時間感覚はまた別かもしれないが。 |
▲3 | 近年ではアンドレイ・アニハーノフが東京ニューシティ管で「交響譚詩」を演奏した。彼はプレス向けの声明の中で伊福部を重要な作曲家と位置づけていた。 |
▲4 | どうも「ラウダ」は海外でもちょくちょく演奏されているらしい。ここで取り上げたものの他にアデレード交響楽団の演奏をラジオで聴いたことがある。 |
▲5 | 以前はVimeoにもっと長い12分程度の動画が掲載されていた。 |
▲6 | 国立青少年芸術センターのFB投稿では「ルーマニア・ナショナル・ユース・オーケストラ」とされていたのだが、CDの表記は「ルーマニア国立交響楽団」となっている。このオーケストラはユース・オケが母体となっているらしい。異国のオーケストラ事情はいまいちよくわからない。仕方ないことだけど。 |
▲7 | こちらは「ラウダ」が読響とのライヴ録音、セジョルネ作品はマリンバと弦楽のための協奏曲のみ。 |
▲8 | これで2016年10月下旬から11月初旬にかけて「ラウダ・コンチェルタータ」のCDが一挙に3種もリリースされることになる。残り1つは「協奏四題」ライブレコーディング。 |